理事長からの挨拶

日本補綴歯科学会に求められるもの
2021年6月
公益社団法人
日本補綴歯科学会
理事長 馬場一美

2021-2022年度(令和3年-4年度)の公益社団法人日本補綴歯科学会理事長を拝命いたしました.この場を借りて皆様にご挨拶を申し上げます.
我が国の疾病構造は少子・高齢化に伴い大きく変化し,医療には,生まれてきた命を大切に育てること,そして長くなった寿命を健康に生きて頂くこと,つまり健康寿命の延伸という大きな課題が突きつけられています.公益社団法人日本補綴歯科学会(以下JPS)はいち早く,「咬合と咀嚼がつくる健康長寿」をスローガンとし超高齢社会に備えて来ました.第129回学術大会では要支援,要介護に対する先制医療としての補綴歯科治療に焦点をあてたシンポジウム「食力向上による健康 寿命の延伸:補綴歯科の意義」を企画し,今期から日本老年精神医学会と共同で咀嚼機能回復,食支援,栄養摂取を介した認知症対策という社会的問題にチャレンジしようとしています.結実すれば先制医療としての補綴治療による健康長寿の実現,ひいては社会的最重要課題である医療費削減にもつながると期待されます.
もう一つの大きな変化として産業構造の変化があります.我が国は,現在,第三次産業革命による省人化・自動化を経て,IoT,ビックデータ,AI,ロボットなどによる第四次産業革命に入っていると言われています.この観点から歯科医療に目を転じてみると,歯科医療もCAD/CAMクラウンの保険収載や,デジタル印象・デジタルX線の普及に代表される,デジタル技術の活用が進み着実に進歩していますが,実際には第二次産業革命が終了し第三次産業革命が進められるかどうかという状況です.しかし,前述のように通常診療の中で画像・形態デジタルデータが「質の高いインプット」としてカルテに紐付けされた形で自動的に蓄積されており,AIを活用する上で最も重要なビッグデータを構築する基盤がすでに整っています.今後,医療全体が「Precision Medicine」型へと変化することが予測され,その中でAIが中心的な役割を担いますが,こうした基盤があることは我々の領域の大きな強みであり,これを学会の叡智を結集して戦略的に活用したと思います.
もちろん,JPS会員の皆様に対してのサービスについても,最新の学術情報の提供,学術・臨床活動の支援,専門医へ向けたキャリアパスの提供など,学術大会や学術雑誌,各種委員会活動を通して充実させて参ります.特に若手会員を対象とした,臨床ならびに研究教育活動については,CampやHands on, Meet the expertなどの企画を計画しています.ご期待下さい.そして,長年の懸案である補綴歯科専門医の広告開示についても執行部を挙げて取り組んでゆく予定です.
2年間という短い期間ではありますが,皆様のご理解とご支援をどうぞ宜しくお願い致します.