理事長からの挨拶

日本補綴歯科学会 理事長

大久保 力廣(Chikahiro Ohkubo)
鶴見大学歯学部
有床義歯補綴学講座 教授

 ご挨拶

2025年6月

(公社)日本補綴歯科学会は1933年(昭和8年)に創立され,歯科の専門学会としては日本で最も長い歴史を有し,輝かしい伝統を継承しながら補綴臨床や歯学研究を牽引し,日本における歯科医学の進歩,発展に大きく貢献してきました.私が理事長を務めさせていただく2年間もこの伝統を引き継ぎ,国民の健康増進を目指した公益性の高い健全な学会運営と臨床補綴学の推進に向けて誠心誠意努力する所存です.
歯を失うと審美性や咀嚼,発音といった日常生活に不可欠な機能が抑制され,生活の質が著しく低下します.また,歯の欠損を長く放置すると,残った歯の移動により噛み合わせが変化して,むし歯や歯周病を惹起することに加え,顎関節に異常をきたすことがあります.さらに口腔機能の低下は低栄養や認知症を引き起こしやすく,全身的な健康減退に直結することが報告されています.「補綴歯科」とは失った歯や体の一部を義歯やインプラントなどの人工物で補い,生活の質や満足度を高める歯科治療であり,健康長寿の延伸,自立度低下の抑制,認知機能の維持に密接に関連することが明らかになっています. こうした補綴治療の重要性とニーズに鑑み,(一社)日本歯科専門医機構より「補綴歯科専門医」が認証されましたが,本制度は日本全国の歯の欠損でお悩みの患者様に専門医に関する適切な情報を開示し,補綴歯科専門治療を提供することを目的としています.一方で,機構より認定された専門医が広告可能になるという医療法の改正は,本学会の専門医養成と認定に関する社会的責務の拡大を意味します.そこで本学会はこの機構認定専門医制度の定着とさらなる充実を図り,専門医を目指す学会員のために専門医カリキュラムを整え,各研修施設にて最新の知識,技術に関するアドバンスドな教育を行ない,良質な専門医,指導医の育成に努めます.また,「補綴」という用語とその専門性についても,国民の皆様にわかりやすく周知したいと思います.
近年の補綴は,接着,インプラント,再生,デジタルといった医療技術の大きな革新を基盤に,飛躍的に進化,発展し,深奥さと多様性を増してきました.さらに今後も補綴治療をイノベーティブに発展,向上させるため,補綴の臨床研究,基礎研究を積極的に推進したいと思います.関連学会や関連企業の方々にもご指導,ご支援をお願いする次第です. 最後になりましたが,「補綴」の真髄と魅力を改めて全学会員で共有し再認識していくとともに,その必要性を国民の皆様に向けて発信していくことが,本学会にとって重要な使命と考えています.日本全国で活躍されている補綴歯科専門医の情報をこのHPを通じてご案内させていただきますので,ぜひご活用ください.補綴治療を必要とする患者様の健康長寿をお祈りするとともに,会員の皆様の暖かいご支援,ご協力を心からお願い申し上げます.